モハンマド・ジャヴァード・ザリーフ イラン・イスラム共和国戦略問題担当副大統領
「イランは平和への道をどう見ているか」
モハンマド・ジャヴァード・ザリーフ:
テヘラン大学グローバル研究科准教授、2024年8月からイランの戦略問題担当副大統領。2013年から2021年までイラン外務大臣。2013年から2015年までイランの首席核交渉官。2002年から2007年まで国連大使。
7月30日、マスウード・ペゼシュキアン氏がイランの新大統領に就任した。就任宣誓式からわずか数時間後、パレスチナ自治政府の元首相でハマス政治局長のイスマイール・ハニーヤ氏が大統領官邸近くのゲストハウスでイスラエルに暗殺された。ハニーヤ氏は宣誓式に出席するよう招待されていたが、イラン国内での殺害は式に暗い影を落とした。また、ペゼシュキアン氏が外交政策の野望を追求する上で今後直面するであろう課題を予感させるものだった。
しかしペゼシュキアン大統領は、今後数年間に生じるであろうあらゆる困難に対処する万全の準備ができている。ペゼシュキアン氏は、世界がポスト二極時代へと移行しつつあることを、すなわち世界の主体がさまざまな分野で同時に協力し、競争できるようになっていることを認識している。氏は柔軟な外交政策を採用し、時代遅れのパラダイムに頼るのではなく、外交関与と建設的な対話を優先している。イランの安全保障に対する同氏のビジョンは包括的であり、伝統的な防衛能力と、経済、社会、環境の各分野の改善による人間の安全保障の強化の両方を包摂している。
ペゼシュキアン氏は中東の安定と経済発展を望んでいる。近隣のアラブ諸国と協力し、イランの同盟国との関係を強化したいと考えている。と同時に、西側諸国とも建設的に関わりたいと考えている。ペゼシュキアン政権は、同じく新大統領を選出したばかりのアメリカとの緊張関係をマネージする用意がある。ペゼシュキアン氏は、核合意に関する対等な交渉、そしておそらくそれ以上の交渉を望んでいる。
しかし、ペゼシュキアン氏が明らかにしたように、イランは不当な要求に屈することはない。イランは常にイスラエルの侵略に立ち向かう。そして、イランは国益を守ることにひるむことはないだろう。
-政治は地域に根ざす-
今は世界が逃すべきではない歴史的な安定の時期である。テヘランは絶対に逃さないだろう。2世紀以上にわたる脆弱な状況の後に、イランは最高指導者アリ・ハメネイ師の指導の下、ついに外部からのいかなる攻撃からも自国を防衛できることを証明した。この実績を次のレベルに引き上げるため、イランは新政権の下、近隣諸国との関係を改善し、安定と富、安全を促進する地域秩序の構築に協力する。我々の地域は、外国の干渉、戦争、宗派間の対立、テロ、麻薬密売、水不足、難民危機、環境悪化に長い間悩まされてきた。これらの課題に取り組むため、我々は経済統合、エネルギー安全保障、航行の自由、環境保護、宗教間対話の追求に取り組む。
最終的に、こうした取り組みは、ペルシャ湾岸諸国の域外勢力への依存を減らし、紛争解決メカニズムを通じて域内関係者が紛争に対処するよう促す新たな地域的取り決めにつながる可能性がある。そのために、域内の国々は条約の締結、制度の創設、政策の制定、立法措置の可決などを進めることができる。イランとその近隣諸国は、欧州安全保障協力機構の設立につながったヘルシンキ・プロセスを模倣することから始めることができる。域内諸国は、1987年に国連安全保障理事会が決議598号に基づき国連事務総長に与えたものの、決して実行されなかった任務を活用できる。イラン・イラク戦争を終結させたこの決議は、事務総長に対し、イランとイラク、その他の地域諸国と協議し、ペルシャ湾岸地域の安全と安定を高めるための措置を検討するよう求めた。ペゼシュキアン政権は、この規定が包括的な地域協議の法的根拠となり得ると考えている。
もちろん、平和で統合された地域秩序を促進するためにイランとその近隣諸国が克服しなければならない障害はある。近隣諸国との相違の中には、歴史の解釈の違いによって生じた根深い原因を持つものもある。他の相違は、主にコミュニケーション不足に起因する誤解から生じている。さらに、イランの核計画の性質と目的に関する疑惑など、外部勢力によって植え付けられた政治的構築物もある。
しかし、ペルシャ湾岸諸国は前進しなければならない。イランのビジョンはアラブ諸国の利益と一致しており、アラブのすべての国は、将来の世代のためにより安定し繁栄した地域を望んでいる。したがって、イランとアラブ世界は相違を乗り越えることができるはずだ。パレスチナ人の抵抗に対するイランの支援は、そのような協力のきっかけとなる可能性がある。結局のところ、アラブ世界はパレスチナ人の権利回復に対する支援においてイランと団結している。
−リセット−
20年以上の経済制裁を経て、アメリカとその西側同盟国は、イランが圧力に応じないことを認識すべきだ。彼らの強めてきた措置は、一貫して裏目に出ている。ワシントンの最新の最大限の圧力キャンペーンが最高潮に達したとき、そしてイスラエルがイランの有力な核科学者モフセン・ファフリザーデ氏を暗殺したわずか数日後、イラン国会は政府に核計画を急速に進め、国際監視の度合いを減らすよう指示する法律を可決した。イランの遠心分離機の数は、ドナルド・トランプ大統領が核合意から離脱した2018年以来劇的に増加し、ウラン濃縮レベルは3.5%から60%以上に急上昇した。西側が協力的なアプローチを放棄していなかったら、こうしたことは起こらなかっただろう。この点で、2025年1月に再任されるトランプ氏と、ワシントンのヨーロッパのパートナー諸国は、イランの核開発の進展が続いていることに責任を問われる立場にある。
イランへの圧力を強める代わりに、西側諸国はプラスサムの解決策を追求すべきだ。核合意はユニークな事例であり、西側諸国はそれを立て直すよう取り組むべきである。しかしそのためには、約束どおりイランが合意から経済的利益を得られるよう、政治的、立法的、そして相互に利益のある投資措置を含む具体的かつ実践的な措置を講じなければならない。トランプ氏がそのような措置を取ると決断すれば、イランはテヘランとワシントンの双方に利益をもたらす対話に応じる用意がある。
より広い視点で見ると、西側諸国の政策立案者は、いわゆるアブラハム合意(さまざまなアラブ諸国とイスラエルとの関係正常化)などの取り組みを支援することでイランとアラブ諸国を対立させることを狙った戦略は、過去に功を奏しなかったことが証明されており、今後も成功しないことを認めなければならない。西側諸国には、イランが苦労して得た信頼を活用し、イランを地域の安定に不可欠な一部として受け入れ、共通の課題に対する協力的な解決策を模索する、より建設的なアプローチが必要である。こうした共通の課題は、テヘランとワシントンが、急激なエスカレーションではなく紛争管理に取り組むよう促すことさえある。イランとアメリカを含むすべての国は、地域情勢不安の根本原因に対処する上で利益を共有している。
今日のイランは、自国を守るために戦えると自信を持っているが、平和を望んでいる。
つまり、すべての国がイスラエルの占領を止めることに利益を持っているということだ。占領が終わるまで、戦いと怒りは続くことを諸外国は認識すべきだ。イスラエルはパレスチナ人に永久に勝利できると考えているかもしれないが、それはできない。失うものが何もない国民は負けない。ヒズボラやハマスなどの組織は、占領に反発して出現した草の根の解放運動であり、根本的な状況が続く限り、つまりパレスチナ人の民族自決権が実現されるまで、重要な役割を果たし続けるだろう。レバノンとガザでの即時停戦を含む中間段階があるかもしれない。
イランは、ガザにおける現在の人道的悪夢を終わらせる建設的な役割を引き続き果たし、国際社会と協力して紛争の永続的かつ民主的な解決を追求する。イランはパレスチナ人が受け入れ可能な解決策であれば何でも同意するが、イラン政府は、この100年にわたる試練を克服する最善の手段は、ヨルダン川と地中海の間に住むすべての人々(イスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒)と、20世紀に離散を余儀なくされたパレスチナ人(およびその子孫)が実行可能な将来の統治システムを選択する国民投票であると考えている。これは国際法に則っており、アパルトヘイト制度を実行可能な民主国家に変えた南アフリカの成功を基に立案されている。
イランへの建設的な関与と多国間外交への取り組みは、ペルシャ湾における世界的な安全と安定の枠組みの構築に役立つものだ。この取り組みにより、緊張が緩和され、長期的な繁栄と発展が促進される。この変化は、根深い紛争を克服するために極めて重要だ。今日のイランは、自国を守るために戦うことができると自信を持っているが、平和を望んでおり、より良い未来を築くことを決意している。イランとのパートナーシップが相互尊重と対等な立場に基づいている限り、イランは有能で意欲的なパートナーになることができる。この新たな始まりのチャンスを逃さないようにしようではないか。